下痢を治すには?知っておきたいメカニズムと対処法
外出中、電車の中、会議中、試験中など、大切な場面でとつぜんに襲ってくるつらーい下痢。すぐにトイレに駆け込むこともできず、冷や汗をかきながらガマンした経験をもつ人は少なくないはず。
あなたは下痢になってしまった時、どうしていますか? 下痢になりやすい人の中には、下痢止め薬を持ち歩いている人もいるかもしれませんが、もしかしたらその対処法は間違っているかもしれません。
いざという時に辛い思いをしないよう、下痢のメカニズムや、下痢になってしまった時の対処法を知っておきましょう!
目次
知っておきたい。どうして下痢になってしまうの?
便の水分が増え、泥や水のようになった状態を「下痢」といいます。下痢になるとお腹が痛くなったり、切迫した便意を感じたり、やたらとガスがたまったりすることが多く、ウィルスや食中毒が原因の場合は吐き気や嘔吐をともないます。
ほとんどの場合、トイレに行く回数が増えますが、回数は関係なく、たとえ1日1回でもその便が泥や水のようになっていたら下痢と考えてかまいません。
では、どうして下痢になってしまうのでしょうか? そのメカニズムを知っておきましょう。
下痢になるメカニズム
健康な人の便は、60~90%が水分です。私たちが食べたものは胃で消化され、小腸でさらに消化・吸収され、残ったものが大腸に移ります。大腸では水分のバランスを調整し、便として排泄するための準備を行います。
ところが、大腸のトラブルにより、便の水分が吸収されてないまま肛門まで移動してしまったり、水分吸収と水分分泌のバランスが崩れてしまうと、水分の多い便が排泄されてしまいます。これが、下痢になるメカニズムです。
下痢は4つに分類できる
下痢になる原因はさまざまですが、「運動亢進性(うんどうこうしんせい)」「分泌性(ぶんぴせい)」「浸透圧性(しんとうあつせい)」「炎症性(えんしょうせい)」の4つに分類できます。
運動亢進性下痢(うんどうこうしんせいげり)
大腸のトラブルで、水分が十分に吸収されないことで起こる下痢です。たとえば、便が腸の中を異常な速さで移動してしまい、水分の吸収が間に合わず、固形にならないまま排泄されてしまうことで、下痢になります。
精神的ストレス、飲み過ぎ・食べ過ぎ、お腹の冷えなどが原因となることが多いのですが、薬や病気により、起きることもあります。
分泌性下痢(ぶんぴせいげり)
細菌の毒素やウイルス、胆汁酸や脂肪酸、ホルモンなどにより、腸の活動が活発になり、過剰に水分や粘液が分泌されることで起こる下痢です。コレラ菌やカンピロバクターによる感染症や、寄生虫などが原因になります。
分泌性下痢では何度もトイレに行きたくなる症状がみられ、コレラでは1時間に約1リットル以上の便が排泄されることもあります。
浸透圧性下痢(しんとうあつせいげり)
吸収されにくい食べ物や薬剤が腸に残ってしまうことで、腸の中の浸透圧(水分を引き付ける力)が上がってしまい、下痢になります。
果物や豆類、およびダイエット食品や飴・チューインガムに含まれる人工甘味料(ヘキシトール、ソルビトール、マンニトールなど)などが、浸透圧性下痢を引き起こす可能性があります。
浸透圧性下痢の代表的なものに乳糖不耐症(にゅうとうふたいしょう)があります。「牛乳を飲むと、すぐ下痢をする」という人は、乳糖不耐症の可能性があります。
炎症性下痢(えんしょうせいげり)
大腸の粘膜(ねんまく)に炎症、潰瘍(かいよう)などができ、便の量と水分量を増加させるタンパク質、血液、粘液(ねんえき)などが分泌されることで、起きる下痢です。
潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)、クローン病、結核、リンパ腫やガンなどのさまざまな病気が原因になります。切迫した便意を感じ、何度もトイレに駆け込む状態になってしまいます。
下痢には「慢性下痢」と「急性下痢」がある
下痢は、その症状によって、急性下痢と慢性下痢に分けることができます。
急性下痢
突然お腹が痛くなったり、何度もトイレに駆け込んでしまうのが急性下痢です。腹痛や発熱、吐き気、嘔吐を伴う場合は、ノロウィルス・カンピロバクターなどによる感染症や食中毒の可能性も考えられます。早めに医療機関に受診しましょう。
他にあまり強い症状がない場合は、暴飲暴食やお酒の飲みすぎ、寝冷え、寒さ・暑さ、食物アレルギーなどが原因として考えられます。その場合は、数時間から2~3日で、自然に治ることがほとんどです。
慢性下痢
3週間以上続いたり、何度もくり返す場合は慢性下痢が疑われます。消化器系の病気や感染症が隠れていることもありますが、ストレスが原因になっている場合も少なくありません。
過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)という言葉を聞いたことはありませんか? 腸にポリープや炎症などの異変がみられないのに、腹痛とともにいきなり下痢が起こる症状などが続き、日常生活に支障をきたしてしまう病気です(敏性腸症候群は、下痢型、便秘型、下痢と便秘を交互にくりかえす交替型に分類されています)。
ストレスにともなう自律神経の異常が原因だと考えられています。
しばらくしても症状がおさまらない場合や、たびたび下痢を繰り返している場合は、原因を調べた上での治療が必要です。おかしいと感じたら、すぐに医療機関を受診しましょう。
知ってて安心。下痢になった時の対処法Q&A
ほとんどの下痢は、身体に害のあるものを少しでも早く外に出してしまおうという防御反応によって起こるものなので、安静にしていればそのうち収まります。なので、慌てることはありませんが、症状を悪化させてしまわないよう、対処法を覚えておきましょう。
急に下痢になった時の応急処置は?
下痢は、腸からのヘルプサイン。まずは、腸を休ませてあげることが大切です。おなかをあたため、できるだけ安静にして様子をみてください。腸に負担をかけない消化のよい食事を心がけることも大切です。
「アイスクリームを食べ過ぎてしまった!」「飲み会で飲み過ぎた」など、心当たりがあり原因がわかっている場合は、薬を飲んでもかまいません。ただし、嘔吐や発熱など他の症状があり原因がわからない時には、薬が逆効果になってしまうこともあるので、素人判断は禁物です。
水分はとった方がいいの?
下痢の時に水分をとりすぎてしまうと、さらに便がゆるくなってしまうんじゃないかと心配する人もいるかもしれません。けれども、実は下痢の時こそ、水分補給が重要なのです。頻繁に排泄することで水分と電解質(とくにナトリウムとカリウム)が失われ、脱水症状や電解質異常になってしまう危険があります。
特に高齢者や乳幼児は脱水症状を起こしやすいので、スポーツドリンクや経口補水液(けいこうほすいえき)などで、できるだけ水分補給を心がけましょう。
下痢の時によい食べ物・悪い食べ物は?
消化・吸収のよいうどんやおかゆなどを、少しずつゆっくり食べましょう。便が固まるまでは、甘いものや生もの、辛いものやコーヒーといった刺激物、脂肪の多い食品は、できるだけ避けた方がいいですね。
下痢の時によい食べ物 | おかゆ、重湯、よく煮込んだうどん、味噌汁、野菜スープ、リンゴのすりおろし、白身魚、ささみ、繊維の少ない野菜 |
下痢の時に悪い食べ物 | 脂肪の多い肉や魚、そば、ラーメン、玄米や赤飯、生野菜や海藻、菓子パン、ケーキ、人工甘味料、お茶、コーヒー、牛乳、アイスクリーム、ヨーグルト、ソフトチーズ |
下痢の時の食事については、次の記事でも詳しく紹介していますので参考にしてください。
下痢止め薬は使う方がいいの?
下痢止めの薬は、ドラッグストアなどで手軽に購入できます。飲み過ぎや食べ過ぎなど明らかに原因が分かっている時は薬を飲んでもかまいません。特に高齢者や乳幼児の場合、 下痢は体力を消耗し、脱水などのより危険な状態を招きかねないので、薬をじょうずに使いましょう。
ただし、下痢の原因がわからない場合は、安易に薬に頼るのはやめた方が無難です。たとえば、ウィルスや食中毒を起こす細菌が原因の場合、下痢は身体の中から毒素を追い出すための防衛反応。下痢をとめてしまうと症状が悪化します。
激しい腹痛や血便、水のような便など症状が強い場合は、細菌やウイルスなどによる感染性の下痢が疑われるので、すぐに医療機関を受診しましょう。
どんな時に医者に行く方がいい?
「下痢で病院に行くのは恥ずかしい」「よくあることだから、病院に行くほどではない」と思ってしまう人もいるかもしれませんが、背景に病気や感染が隠れている場合、命を落としてしまう可能性もあるのです。激しい下痢が悪化していく場合や、症状がくりかえされたり、長引く場合は迷わず病院へ行きましょう。特に下記のような症状があれば注意が必要です。
- 激しい下痢
- 便に血がまじっている
- 下痢以外に嘔吐や腹痛などの強い症状がある
- 食事を一緒にした人も同じ症状がある
- 症状がどんどん悪化していく
- 水分をとっても、異常に口が渇く
- 海外(特に途上国)に行った後に下痢になった
- 発熱している
下痢を予防するための3つの生活術
「たびたび下痢をする」「大事な時に限って下痢になる」「旅行に行くと下痢をしそうで不安」など、人知れず悩んでいる人も少なくないはず。
下痢を予防するためにはどんなことに気をつけたらいいのでしょうか。3つのポイントを覚えておきましょう。
まずは生活習慣を整えよう
お腹が冷えていると腸の働きが低下し、便秘や下痢を引き起こします。寒い冬はもちろん、夏場のエアコンの使い過ぎもお腹を冷やしてしまうので、意識して身体を温める工夫が大切です。お腹を冷やさない服装を心がけ、冷たい飲み物や食べ物を食べ過ぎないよう注意しましょう。
また、食事・睡眠・排便などの生活リズムが乱れると腸の働きが悪くなり、下痢を招くことがあります。朝食抜き、寝る直前に食事など、不規則な食事時間になっていませんか?生活習慣を見直し、できるだけ規則正しい生活を心がけましょう。
そして、あたりまえのことですが手洗いやうがいの習慣を身につけ、食中毒や胃腸炎への感染を防ぎましょう。
- お腹を冷やさない
- 規則正しい生活を心がける
- 手洗いやうがいなどの習慣をつける
下痢になりやすい人は食生活に気をつけて
言うまでもなく、暴飲暴食は下痢の原因になります。たとえば、夏。暑いからと言って、水分や冷たいものをたくさん摂り過ぎると下痢を引き起こす可能性があります。また、アルコールを飲み過ぎると、タンパク質や脂肪などが吸収されにくくなり下痢になりやすいので、ほどほどにしておきましょう。糖分の高いケーキやお菓子、ポテトチップスやファーストフードなど脂肪分の多い食品も、食べ過ぎると下痢の原因になります。
また、蕎麦、卵、牛乳、牛肉など特定の食品に対してアレルギーがある場合、体が異物と判断し早く追い出そうとするため、下痢になります。自分が何を食べた時に下痢になるのかチェックしてみてください。
- 過剰な水分・アルコールの摂取は控える
- 甘いもの(人工甘味料を含む)や脂肪分の多い食品に注意
- 消化の悪い食品を食べすぎない
- アレルギーがある食材は避ける
脳と腸にやさしい生活を!
下痢を予防するためには、腸の健康を守ることが何より肝心です。
「脳腸相関(のうちょうそうかん)」といわれているように、腸と脳は連動しています。ストレスがたまったり、緊張状態が続くと、腸の動きをコントロールしている自律神経のバランスが乱れ、腸の動きが鈍くなります。その結果、下痢や便秘などの症状があらわれることがわかってきました。
自律神経のバランスを整え、腸に正常に働いてもらうためには、できるだけリラックスしハッピーでいることが大事。「おいしいものを食べる」「好きなことに没頭する」「音楽を聴く」「友だちとおしゃべりする」「温かいお風呂に入る」「マッサージを受ける」「とにかく寝る!」など、自分なりのストレス解消法を身につけましょう。
- できるだけリラックスして、ハッピーに!
- ストレスを解消できる方法を探す
まとめ
つらい下痢は、腸からのSOSのサインかもしれません。原因をみきわめ、正しく対処しましょう。
たびたび下痢が繰り返されている場合は、飲み過ぎ・食べ過ぎなど腸に悪い食生活をしていないか、ストレスがたまっていないか、不規則な生活習慣で腸に負担をかけていないか、この機会に見直してみてくださいね。
参照:MSDマニュアル
参照:「おなかの張り」をとれば腸は年をとらない!(松生恒夫 著)
参照:よくわかる 便秘と腸の基本としくみ(坂井正宙 著)